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おっちゃん物想う

おっちゃん物想う

旅の香り

キンモクセイの花の香りのする頃、

僕は旅に出たくなる。

家族も仕事も友達も残して。

金なんて少し有れば良い。

野宿でも出来る季節だ。

キンモクセイの花が散る頃には帰ってくる。

香しい思い出ばかりとはいかない。

汗で臭くなったシャツを担いでいたりする。

山に行っても川の美しさ、水の清らかさが大事だ。

洗濯する気には成らない。

ぶらっと出掛けて、さまよって、多くの花を見る事。

摘んでみる事などしない。

帰ってきた街にはもう香しさはない。

着飾って化粧した女性。

花のようでもある。

だけどもう旅はしない。

摘めないこの花は、飾って置くに限る。

まどろみの中で正体不明に成る。

危うい花の様な物は旅を危険だと思わせる。

旅での花は触れて見る事も、面白い。

街の花は生気が無い。

触るのが恐い。

生気が満ちてくる予感のするキンモクセイの花。

凍りつくような冬の街。

何よりも心が。

それを待てなくて、

太陽が真上に来る頃、もう一度旅に出る。

一度は行かないと決めていても、街は変わり過ぎる。

アジサイの花の色のうつろいが過ぎ、終わりの旅に出る。

街を感じる為の旅。

恍惚の様な趣から、その魔法を解く旅に。

街の硬さや冷たさに、きんもくせいは、甘すぎる。

捕らえられた心は、緩やかな非人間的な時間を作る。

この花で指輪を作ってあげたあの人にはもう会えない。

何かはもう終わっているのに、あの香しさ。

終わりの旅を始めても、強くは成れない。

きっと僕の旅はもう終わりが無くなったのだろう。

あの人が行ってしまってから。

いつからか必ず凍りつく冬の旅が待っている。

キンモクセイの甘さは、そのプロローグ。

エピローグが語られる事は無くなった別れは始まってさえ居なかったのさ。

甘い誘惑だけが有った。













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